アラ・パキスのモザイク
ローマを縦断するテベレ川沿いに、「アラ・パキス」という2000年前に作られた祭壇を納めた博物館がある。
その博物館の中に素晴らしいモザイク壁画がある。ミンモ・パラディーノという国際的に有名なイタリア人画家の下絵をローマ在住のモザイク作家コスタンティーノ・ブッコリエリがモザイクにした。幅7m、高さ6mの壁画。
壁画は大きな三角形と四角形で面取りをされた凹凸の大きいレリーフになっている。かなり珍しい形状だ。部屋には光があふれている。光の変化でモザイクの表情もずいぶん変化するだろう。面取りのシャープなエッジは光によって強調され、現代的な印象を与える。
ローマ時代の帆掛け船、迷路、机と椅子、器、鳥、葉っぱ、はしごなどが、そっけない黒い線描で描かれている。線の表情とリズムが彼独特の気分を醸し出す。どこがいいのかといわれると説明に窮するが、手の込んだご馳走ばかり食べていると、素材を並べただけのような料理がおいしく感じるというようなことなのか。飾り気のない線で描かれた、ちょっとユーモラスで謎めいた、意味ありげなモチーフの組み合わせが心地よい。
私は作品を作るとき、あるいは人の作品を鑑賞するとき、モザイクの独自性ということを評価する。絵画のコピーでは物足りない。しかし、このミンモ・パラディーノやシャガールのモザイク作品を見ると、すこし考えが変わる。モザイクにすることで、下絵が持っていた表情が単純化され、絵とは別の価値を持つ。結局一級品の下絵を一流のモザイク作家が翻訳すれば(下絵をモザイクにすることを「翻訳」と呼ぶ。ただのコピーではないといいたいのだ。)いいモザイクになるということなのかもしれない。(喜井)
アラ・パキスのモザイク
光はこの博物館の空間の中でとても重要な役割を果たしている。祭壇はガラス張りの部屋に置かれていて、観客はさまざまな光に包まれながらこの祭壇を鑑賞する。外からも見えるから入場料を払わなくてもいい、という書き込みがネットにあった。
アラ・パキスの祭壇のある部屋を抜けて奥へ向かうと、光に満ちた壁画の部屋がある。モザイク壁画は、光の変化を反映して多彩な表情を見せる。モザイクは光と同化する、と作者のミンモ・パラディーノは語る。
モザイクに描かれた線描は人類が初めて洞窟で岩に残した壁画を思い起させる。アラ・パキスの祭壇に刻み込まれた長い歴史、2000年前の古代から現代に至る人の歩みに思いを寄せながらこの壁画を作ったそうだ。ある評論家は「このナポリ生まれのアーティストの絵に描かれたものは、気ままな視点で描かれ重さのないダンスのように画面に配置されている。」
ミンモ・パラディーノの言葉
「私は山ほどキャンバスに絵を描いてきたが、四角い閉じられた画面に興味を持ったことはない。限界のない画面が私の望みだ。画廊での展示なら、その空間の形に合わせて作品を作る。さまざまな形式のアートを試すうちにそういう姿勢が身についた。」
「異なる素材の出会いを楽しみにしている。異なるものを並置するのではなく、異質なものとの出会いで新たなものが生まれる化学反応を待っている。」
「職人と一緒の仕事はあまりしない。彼らは自分の仕事に固執する。しかしこの壁画を作ってもらったモザイク職人のコスタンティーノ・ブッコリエリは、自分の知識をひっくり返されても気にしない。だから一緒に仕事ができた。」
以上アラ・パキス美術館のホームページに公開されている資料をもとに概略を紹介した。